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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決

原告 株式会社マックホームズ

被告 新宿税務署長

主文

一  被告が、原告に対し、平成二年二月二七日付けでした、昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度の法人税更正処分のうち、納付すべき税額一四億九七八一万六一〇〇円(所得金額二四億九五四四万三七五八円、超短期所有の土地に係る土地譲渡利益金額一億二九七七万〇一四三円、短期所有の土地に係る土地譲渡利益金額二〇億七九〇四万八四七七円として計算した税額から控除所得税額五〇一万〇四九五円を差し引いた金額)を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち一億九四五五万七五〇〇円を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、平成二年二月二七日付けでした、昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度の法人税更正処分のうち、納付すべき税額三億六一五〇万五三〇〇円(所得金額四億七一二三万〇二〇八円、超短期所有の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額一億二九七七万〇一四三円、短期所有の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額六億四八三四万一〇〇〇円として計算した税額から控除所得税額五〇一万〇四九五円を差し引いた金額)を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち二四一一万一〇〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産業を営む株式会社であるが、昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄記載のとおり納税申告をしたところ、四谷税務署長は、平成二年二月二七日付けで、原告に対し、同表の「更正処分等」欄記載のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下、右過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と本件賦課決定処分とを併せて「本件各処分」という。)をした。

原告は、本件各処分を不服として、同年四月一一日、四谷税務署長に対し、異議申立てをしたが、異議申立後三か月を経過しても異議決定がされないので、同年八月六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、平成七年一〇月二四日付けでこれを棄却する旨の裁決をした(その経緯は別表1記載のとおり)。

なお、原告は、本件各処分後の平成六年四月二四日、本店所在地を東京都新宿区新宿一丁目九番一号から東京都新宿区大久保二丁目二番七号に移転し、同年四月二五日付けでその旨登記したので、国税通則法(以下「通則法」という。)八五条により、本件各処分は被告がしたものとみなされるものである。

2  しかしながら、本件各処分には、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録二記載の建物(三徳ビルという名称の建物である。以下「本件建物」といい、本件土地と本件建物を併せて以下「本件不動産」という。)の株式会社富士エステートアンドプロパティ(以下「富士エステート」という。)に対する譲渡に係る売上げの計上時期を誤り、ひいては、原告の所得金額等を過大に認定した違法がある。

よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認め、同2は争う。

三  抗弁(本件各処分の適法性)

1  所得金額

(別表2の(1)〈17〉欄記載の金額)

二四億九五四四万三九〇八円

(一) 原告の本件事業年度の所得金額は、別表2の(1)〈1〉欄記載の申告所得金額に、同〈2〉ないし〈6〉欄記載の金額を加算し、同〈8〉ないし〈13〉及び〈16〉欄記載の金額を減算して得られる同〈17〉欄記載の金額である。

(二) 売上げ計上漏れ額

(別表2の(1)〈2〉欄記載の金額。その内訳は別表3記載のとおり)

六六億二一三八万円

(1) 法人税における当該事業年度に計上すべき収益及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされており(法人税法二二条四項)、右の基準を明文化したといわれる企業会計原則は、その第二の三Bにおいて、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と規定している。したがって、不動産販売による売上げの計上時期については、その販売によって実現した時を基準とすべきであり、その実現した時がいつであるかを判断するに当たっては、不動産販売による売上げという性質に照らし、必ずしも契約上の所有権移転時期に拘束されるものではなく、目的物が引き渡され、その現実の支配が移転したときをもって判断すべきである。「たな卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」と定める法人税基本通達二―一―一は、収益の帰属年度を決する基準として合理的なものである。

そして、いつ現実の支配が移転したかは、登記関係書類の交付、代金決済、所有権移転登記及び建物の鍵の引渡し等の状況を勘案して合理的に決すべきである。

(2) これを原告の不動産販売による売上げの計上時期についてみると、以下のとおりである。

ア 昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までの事業年度(以下「前期」という。)以前の売上げに計上されていたもの

七億六九九七万円

原告が前期以前の売上げに計上していた別表3の〈1〉欄記載の各物件は、鍵の引渡し又は売買代金の支払が本件事業年度内に行われているから、右に記載した右各物件の売上金額は本件事業年度に計上すべきものである。

イ 昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日までの事業年度(以下「翌期」という。)の売上げに計上されていたもの

五五億円

原告は、別表3の〈2〉欄の本件不動産の売上げを昭和六三年七月七日として翌期に計上していた。

しかしながら、以下に述べる事情からすれば、本件不動産の譲渡に関しては、昭和六二年九月一一日にその現実の支配が移転したものとみるべきであるから、その売上げは、本件事業年度に計上すべきものである。

(ア) 本件不動産の売買契約(以下「本件売買契約」という。)において、a 売買代金は五五億円とし、手付金五億円は契約成立時に、中間金一〇億円は昭和六二年九月一一日までに支払う、b 売主は、中間金受領日以降、買主が本件売買契約の残代金四〇億円を支払ったときは、いつでも本件不動産の引渡し及び所有権移転登記に応ずる、c ただし、昭和六四年(平成元年)一二月三一日までの時期については買主の任意に任せる、この場合、買主は、昭和六二年九月一一日以降の本件不動産に係る公租公課を負担し、第一住宅金融株式会社(以下「第一住宅金融」という。)からの後記四〇億円の借入れに係る昭和六三年一月二三日以降の分の支払利息を負担し、本件建物の賃借人に対する立退費用等が発生した場合にはこれを負担するのみならず、その他所有権者に対して発生する一切の費用を負担するとともに、昭和六二年九月一一日以降天災その他売主及び買主の責めによらない事由によって本件不動産が滅失又は毀損した場合の危険を負担する旨の合意がされた。

(イ) そして、実際に手付金五億円は右契約成立時に、中間金一〇億円は昭和六二年九月一一日に、残代金四〇億円は昭和六三年六月三〇日にそれぞれ富士エステートから原告に支払われた。

(ウ) 昭和六二年九月一一日以降は、本件建物に係る賃貸料の収受及び維持管理費である固定資産税、電気・ガス・水道の利用料金、電気保安料、エレベーター保守料等の経費の負担は、買主である富士エステートが行っている。これは、本件建物の賃貸人たる地位ないし所有者たる地位が原告から富士エステートに移転したことの現れと評価できる。

(エ) ところで、本件不動産を取得した当時である昭和六二年一月二三日、原告は、第一住宅金融から四〇億円を借り入れ(以下「本件借入れ」という。)、本件借入れの担保として本件不動産に抵当権を設定した。そして、本件借入れに係る元金は本件不動産の売却時又は平成二年一月二二日に一括して返済することとされ、本件不動産を売却する場合、売買代金の受領権限は第一住宅金融に委任され、第一住宅金融は受領した代金を原告に対する貸付金の弁済に充当することとされていた。

したがって、原告が平成二年一月二二日までに本件不動産を売却する場合には、売買代金のうち四〇億円が右借入元金の弁済に充てられることにより、これを超過する金額のみが本件不動産の売却による原告の実質上の利得となる反面、原告の負担は支払利息のみとなることが当初から予定されていたものということができる。そうであるとすれば、本件において、原告は、昭和六二年九月一一日までに売買代金のうち一五億円を受領することによって、既に右売却による実質上の利得に相当する金額を確保しており、しかも、本件借入れに係る支払利息についても、昭和六三年一月二二日支払分以降については富士エステートが支払っているのであるから、昭和六二年九月一一日時点で本件売買代金の約七割を占める残代金四〇億円が支払われていなかったとしても、そのことを重視すべきではない。

(オ) なお、本件売買契約の場合、買主である富士エステートに対し権利証などの関係重要書類の交付や所有権移転登記、本件建物の明渡しや鍵の引渡し、本件建物の賃借人に対する貸主変更通知など通常引渡しの徴憑となる行為が行われていないが、関係重要書類の交付や所有権移転登記がされていないのは、原告の主張によっても「売主・買主の都合」によるものであるし、本件建物の明渡しや鍵の引渡し、賃借人に対する貸主変更通知がされていないのは、本件建物が賃貸中の物件であった上、原告と賃借人の一部との間で建物明渡しに関する訴訟が東京地方裁判所八王子支部に係属していたことによるものであるから、本件の場合、右の各行為が行われていないことをもって、本件不動産の引渡しを否定する理由とすることはできない。このことは、原告自身、右各行為が現在においても行われていないにもかかわらず、昭和六三年七月一日に本件不動産の引渡しがあった旨主張していることからも明らかである。

(カ) 富士エステートは、昭和六三年六月三〇日、富士銀行兜町支店が同日付けで発行した後記原告主張の預金小切手を第一住宅金融に交付することにより、原告の第一住宅金融に対する本件借入金を代位弁済したのであるが、原告は、右預金小切手がその翌日に決済されたことを根拠として、残代金四〇億円の支払日が同年七月一日であるとし、同日を本件不動産の引渡日とすべきである旨主張する。

しかしながら、預金小切手は、取引界において通常現金と同様に取り扱われているものであるため、会計上も現金として扱われているものである。本件においても、右代位弁済により、第一住宅金融は、昭和六三年六月三〇日付けで原告に対し右金額の領収証を発行するとともに、右借入金が同日に完済された旨を付記して右借入金に係る金銭消費貸借契約書を原告に返却しており、原告の第一住宅金融に対する本件借入金は、富士エステートの代位弁済により昭和六三年六月三〇日に消滅しているのであるから、残代金の支払も同日になされたものといわなければならない。したがって、仮に原告のように、残代金の支払をもって本件不動産の引渡日とみるとしても、本件不動産の引渡日は昭和六三年六月三〇日となり、本件不動産の販売による売上げは本件事業年度の収益に帰属することになるから、いずれにしても原告の主張は失当である。

ウ 本件事業年度の売上げから減額していたもの

一三億三九六〇万円

原告は、前期の売上げに計上していた別表3の〈3〉欄記載の各物件に係る売買契約が本件事業年度に解約されたとして、右に記載した売上金額を本件事業年度の売上げから減額していたが、右各物件は鍵の引渡し及び売買代金の支払が行われないうちに解約されたものであり、そもそも前期の売上げに計上すべきものではないから、右売上金額を本件事業年度の売上げから減額する理由はない。

エ 翌期の売上げに計上すべきもの

九億八八一九万円

原告が本件事業年度に計上した別表3の〈4〉欄記載の各物件は、鍵の引渡し及び売買代金の支払が翌期以降に行われているため、右に記載した右各物件の売上金額は本件事業年度に帰属しないものである。

(三) 工事費否認額

(別表2の(1)〈3〉欄記載の金額。その内訳は別表4記載のとおり)

一億九二〇〇万円

右金額は、原告が本件事業年度の損金に算入した架空工事の合計金額である。

(四) 減価償却費損金不算入額

(別表2の(1)〈4〉欄記載の金額。その内訳は別表5記載のとおり)

二三万八五九五円

原告は、本件事業年度の経費に計上した減価償却費の全額を損金に算入していたが、原告がした減価償却費の損金算入限度額の計算には、建物を事業の用に供した日及び取得価額の計算に関し誤りがあった。右金額は、被告が右誤りを是正して減価償却費の損金算入限度額を計算した結果、本件事業年度の損金に算入できないことになる減価償却費の合計金額である。

(五) 受取利息除外額

(別表2の(1)〈5〉欄記載の金額。その内訳は別表6記載のとおり)

二〇四八万四八五七円

原告は、公表外の預金及び貸付金に係る利息を収受していたにもかかわらず、右利息を収益から除外していた。また、公表外の預金のうち個人名預金に係る利息について、原告が源泉徴収された所得税のうち一部が過払いとなっていた。

右金額は、本件事業年度における、右公表外の預金及び貸付金に係る利息並びに右過払いの源泉所得税の合計額である。

(六) 雑収入除外額(別表2の(1)〈6〉欄記載の金額)

一七〇七万七三四〇円

原告は、昭和六二年七月三〇日に株式会社プラザハウス(旧商号株式会社葵都市開発)から右金額の収益分配金を収受していたにもかかわらず収益から除外していた。

(七) 仕入認容額

(別表2の(1)〈8〉欄記載の金額。その内訳は別表7記載のとおり)

三八億一三〇六万九〇三七円

右金額は、後記(1)の金額から(2)の金額を控除した金額であり、本件事業年度の仕入れとして損金に算入した金額である。

(1) 売上計上漏れに伴う仕入計上漏れ

三八億八三三九万四〇六二円

原告は、本件事業年度の収益に計上すべき別表3記載の各物件の売上げを前期以前又は翌期に計上し、右各物件の取得価額をそれぞれその売上げを計上した事業年度の損金に算入していた。

被告は、同表「被告認定日」欄記載のとおりの年月日に右各物件の支配の移転が行われたものと認定し、いずれの売上げも本件事業年度に帰属するものであると判断して、右各物件の取得価額を本件事業年度の仕入れとして損金に算入した。

(2) 仕入過大計上(別表8記載のとおり)

七〇三二万五〇二五円

原告が分譲販売したマンション又は土地について原告がした販売原価の計算は合理的と認められないので、被告は合理的と認める方法により右販売原価の額を計算し直した。

右金額は、被告の算出額と原告の計上額との差額であり、過大に仕入れに計上されていた金額である。

(八) 支払手数料認容額(別表2の(1)〈9〉欄記載の金額)

六一〇〇万円

右金額は、後記(1)の金額から(2)及び(3)の金額を控除した金額であり、本件事業年度の支払手数料として損金に算入した金額である。

(1) 前記(二)(2)に伴う認容額(別表9記載のとおり)

一億六六〇〇万円

原告は、前記(二)(2)で述べたとおり、本件不動産に係る売上げを翌期に計上し、本件不動産の販売手数料である右一億六六〇〇万円を本件事業年度の損金に算入していなかったが、本件不動産の売上げは本件事業年度に帰属するものであるから、右金額を本件事業年度の損金に算入した。

(2) 架空支払手数料額(別表10記載のとおり)

三五〇〇万円

右金額は、原告が本件事業年度の支払手数料に計上した別表10記載の各物件に係る架空販売手数料の合計金額である。

(3) 取得原価にすべき支払手数料額

七〇〇〇万円

原告は、株式会社神和実業に支払った手数料合計七〇〇〇万円を本件事業年度の損金に算入していたが、右手数料は、「西新宿コート」物件の土地取得に係る費用であるから、右物件の取得原価に計上すべきものであり、また、右取得原価は、右物件が本件事業年度において商品勘定から固定資産勘定に振り替えられたことから、本件事業年度の損金に算入できないものであった。

右金額は、右の理由により、本件事業年度の損金算入を否認した支払手数料の金額である。

(九) 支払保険料認容額(別表2の(1)〈10〉欄記載の金額)

三一〇万四〇九二円

原告は、昭和六一年一二月東京海上火災保険株式会社に対して一五五二万〇四六〇円の保険料を支払い、前期に一括して損金に算入していたが、右保険料による保険期間は五年であることから、右保険料は長期前払費用となるため、被告は、右支払時における損金算入額のうち、本件事業年度以降に係る分を否認するとともに、右支払額に六〇分の一二を乗じて算出した右金額を、本件事業年度に係る保険料として損金に算入した。

(一〇) 雑費認容額(別表2の(1)〈11〉欄記載の金額)

四万〇八〇〇円

右金額は、公表外の預金の入出金に係る振込手数料及び貸金庫の手数料の合計額であり、原告の本件事業年度の経費として損金に算入した。

(一一) 事業税認定損

(別表2の(1)〈12〉欄記載の金額。その内訳は別表11記載のとおり)

一億二五四一万六四〇〇円

右金額は、本件更正処分と同時に行った前期分の更正処分により増加した前期の所得金額に対する事業税の増加額であり、本件事業年度の損金として算入した。

(一二) 支払利息認容額

(別表2の(1)〈13〉欄記載の金額)

一億二五〇一万九一七八円

原告は、昭和六二年六月二三日に第一住宅金融に対して、同年七月二三日から昭和六三年一月二二日までの借入期間に係る借入利息として右金額を支払い、これを前期に損金に算入していたが、右借入利息の計算期間は、そのすべてが本件事業年度に属するものであるから、前払費用となるため、被告は、前期における損金算入を否認するとともに、右金額を本件事業年度の借入利息として損金に算入した。

(一三) 繰越欠損金の損金算入認容額

(別表2の(1)〈16〉欄記載の金額)

二億八五〇七万七〇二七円

右金額は、前々期に係る繰越欠損金額であり、法人税法五七条の規定に基づき、本件事業年度の損金に算入される金額である。

2  土地譲渡利益金額

法人が土地又は土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)を譲渡した場合、譲渡した土地等の取得をした日の翌日から譲渡をした日の属する年の一月一日までの期間(以下「所有期間」という。)に応じて、法人税法六六条による法人税とは別に、次に述べる租税特別措置法(以下「措置法」という。)による法人税が課される。

すなわち、昭和六二年一〇月一日以後に譲渡した所有期間が二年以下の土地等の譲渡(以下「超短期所有の土地の譲渡」という。)をした場合は、その譲渡利益金額の合計額に一〇〇分の三〇を乗じた金額が法人税として課税され(措置法六三条の二(平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下同じ。))、昭和六二年九月三〇日以前に所有期間が一〇年以下の土地等の譲渡及び同年一〇月一日以後に所有期間が二年を超え五年以下の土地等の譲渡(以下、両者を併せて「短期所有の土地の譲渡」という。)をした場合は、その譲渡利益金額の合計額に一〇〇分の二〇を乗じた金額が法人税として課税される(措置法六三条(前者については昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、後者については平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下同じ。)、措置法六三条の二)。

措置法六三条一項及び措置法六三条の二第一項に規定する土地譲渡利益金額とは、土地の譲渡等による「収益の額」から、その収益に係る「原価の額」及び土地の譲渡等のため「直接又は間接に要した経費の額」として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をいい(措置法六三条二項、措置法六三条の二第二項)、右の「直接又は間接に要した経費の額」とは、「負債の利子の額」と「販売費及び一般管理費の額」の合計額とされている(租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)三八条の四第六項、同施行令三八条の五第四項(いずれも平成三年政令第八八号による改正前のもの。以下同じ。))。

(一) 超短期所有の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額

(以下「超短期土地譲渡利益金額」という。別表12記載のとおり)

一五億六〇四七万七一五九円

原告は、本件事業年度において、別表12記載のとおり超短期所有の土地の譲渡をしており、右譲渡に係る土地譲渡利益金額には措置法六三条の二の適用があるところ、原告は、右土地譲渡利益金額を零円として確定申告をしていた。

右金額は、同法の規定に基づき算出した原告の超短期土地譲渡利益金額である。

ただし、原告が確定申告に係る土地譲渡利益金額の計算に当たり、(1)「負債の利子の額」については、措置法施行令三八条の四第六項一号に規定する方法(以下「概算法」という。)により、また、(2)「販売及び一般管理費の額」については同施行令三八条の四第八項に規定する方法(以下「実額法」という。)により計算していたことから、被告も、右土地譲渡利益金額の計算において、右(1)を概算法により、また、右(2)を実額法により計算した(後記(二)において同じ。)。

(二) 短期所有の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額

(以下「短期土地譲渡利益金額」という。別表13記載のとおり)

六億四八三四万一四六一円

原告は、本件事業年度において、別表13記載のとおり短期所有の土地の譲渡をしており、右譲渡に係る土地譲渡利益金額には措置法六三条の適用があるところ、原告は右土地譲渡利益金額を零円として確定申告していた。

右金額は、措置法六三条の規定に基づき算出した原告の短期土地譲渡利益金額である。

3  本件更正処分の適法性

前記1及び2で述べたとおり、原告の本件事業年度の所得金額は二四億九五四四万三九〇八円、短期土地譲渡利益金額は六億四八三四万一四六一円であって、本件更正処分における右各金額と同額であり、また、超短期土地譲渡利益金額は一五億六〇四七万七一五九円であって、本件更正処分における右金額は、右の被告主張額の範囲内となるから、結局、本件更正処分は、被告主張額の範囲内でされたものであって適法である。

4  本件賦課決定処分の適法性

別表14、15記載のとおり、過少申告加算税の基礎となる金額は一四億四八一〇万円(通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)であり、過少申告加算税は二億一六〇一万八〇〇〇円であるところ、本件賦課決定処分における過少申告加算税は別表1記載のとおり二億一〇五四万一五〇〇円であって、右の被告主張額の範囲内であるから、本件賦課決定処分は適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

(認否)

1 抗弁1のうち、所得金額が二四億九五四四万三九〇八円であるとの柱書き記載の事実、(二)の(2)のイ、(七)の(1)のうち本件不動産に係る仕入認容額、(八)の(1)は争い(ただし、本件不動産の仕入金額、販売手数料の金額が被告主張のとおりであることは認める。)、その余は認める。

2 同2の(一)のうち、本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額を本件事業年度の超短期土地譲渡利益金額に加算すべきであるとする点は争い、その余の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額、本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額の計算方法及び計算結果自体は争わない。

同2の(二)は認める。

3 同3は争う。

4 同4は争う(ただし、本件不動産の販売による売上げの計上時期が被告主張のとおりであり、右販売が超短期所有の土地の譲渡に該当するとした場合に、所得金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、超短期土地譲渡利益金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、短期土地譲渡利益金額のうち仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額が被告主張のとおりとなることは争わない。)。

(反論)

1 本件不動産の引渡日は、以下に述べるとおり昭和六三年七月一日であり、その取引に係る収益の計上時期は本件事業年度ではなく翌期である。

(一) 法人税における収益及び損金の帰属年度の決定に当たっては、実現主義の原則に従い、取引の完了の認識基準としての「引渡し」によって決すべきである。

そして、引渡しの基準となる「当該資産に対する支配関係の移転」とは、取引の完了すなわち所有権の移転の指標となりうる事実関係をいうのであって、具体的には、売買契約の内容、権利証や印鑑証明書等関係書類の交付、建物の鍵の交付など物件の占有関係、代金の授受、移転登記等の諸要素を検討して判断すべきである。

(二) 本件においては、以下の事情からみて、本件不動産の現実の支配は、被告主張の昭和六二年九月一一日ではなく、昭和六三年七月一日に移転したものとみるべきである。

(1) 所有権は処分権能を伴わなければならないところ、本件売買契約においては、買主が残代金四〇億円を支払ったときはいつでも本件不動産を買主に引き渡し、所有権移転登記を経由することとされており、昭和六二年九月一一日の段階では、買主である富士エステートは本件不動産の処分権を何ら有していない。

(2) 本件売買契約の残代金四〇億円の支払は、原告の第一住宅金融からの四〇億円の本件借入れにつき、富士エステートが第一住宅金融に対して代位弁済することによって行われた。

具体的には、富士エステートが、昭和六三年六月三〇日、富士銀行兜町支店発行の額面四〇億円の預金小切手(以下「本件預手」という。)を第一住宅金融に交付し、右預手が同年七月一日に東京手形交換所に呈示され、同日決済されることにより、本件借入金の代位弁済がされたものである。

そして、金融機関においては、受取人の取立銀行以外の銀行発行の自己宛小切手が手形交換所に呈示された日ではなく、手形交換所を通じて現金化された日をもって弁済の日とする取扱いをしていること、昭和六三年七月一日までの利息が第一住宅金融に支払われていることから、残代金の決済日は同日とみるべきである。

(3) 昭和六二年九月一一日の時点では、本件売買契約の代金のうち一五億円(代金全額の約二七パーセント)しか支払われておらず、所有権移転登記やその申請に必要な書類の準備、本件建物の鍵の引渡しや賃借人に対する所有者の変更通知等も全く問題になっていなかった。

(4) 昭和六二年九月一一日以降の本件建物の賃貸料(維持経費の一部としての電気料、水道料、エレベーター保守料を支払った残り)が原告から富士エステートに支払われている旨の帳簿処理がされているが、これは、原告が一五億円という内金の支払(先履行)を受けていることの見返りとして、実質的に利息の一部を補填していたものにすぎず、そもそも、本件取引の総体からみれば月額二百数十万円の賃貸料相当分の経済的利益が売主・買主のいずれに帰属するかは大した問題ではない。しかも、右賃貸料相当額は、現実には昭和六二年一〇月二七日になって漸く富士エステートに支払われたものであり、この点からみても、同年九月一一日の時点で本件建物の賃貸人たる地位が実質的に富士エステートに移ったものとは評価できない。

(5) 本件売買契約において、本件借入れに係る利息につき、富士エステートは昭和六三年一月二三日以降の分から負担すればよいこととされており、富士エステートと原告が昭和六二年九月一一日を本件不動産に対する支配関係の移転の基準日として考えていたということはない。

(6) 買主である富士エステートは、昭和六三年七月一日までは、いかなる意味においても所有者として振る舞ってはいない。昭和六三年度及び平成元年度の本件不動産の固定資産税については、原告が武蔵野市に対しこれを支払っている。なお、本件建物のエレベーター保守料について、富士エステートがこれを負担している事実はない。

(三) 本件不動産の取引は、老朽化したビルを取り壊して新築マンションを分譲販売することを目的としたものであり、売買価格の実質は本件土地の代金であったから、その実質は土地の取引である。したがって、当該たな卸資産が土地又は土地上の権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでない場合には、(1)代金の相当部分(おおむね五〇パーセント以上)を収受するに至った日又は(2)所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日のいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる旨を定める法人税基本通達二―一―二後段が適用されるべきであり、かかる観点からも、代金の相当部分を収受するに至った日である昭和六三年七月一日が引渡日となる。

(四) たな卸資産の引渡日をいつにするかについては、合理的で継続性を備えている限り、たな卸資産の種類と性質、契約の内容などにより、当該法人の適正とする基準を選択できるものである(法人税基本通達二―一―二)。

本件の場合、本件不動産の引渡時期を昭和六三年六月三〇日や昭和六二年九月一一日と捉える余地があるとしても、前述したところからすれば、少なくとも同等以上の合理性と根拠とをもって昭和六三年七月一日を引渡日と捉えることができるというべきであり、したがって、原告がそのうちの一つである同日を引渡時期として税務申告をしても、それを誤りとすることはできないはずである。

本件では、原告は、継続的な業務の中で継続的な扱いに従って、本件不動産の引渡時期を昭和六三年七月七日としてすべての帳簿処理を平常どおり進めていた。これは、原告が本件売買の残代金の決済をもともと昭和六三年七月以降にすることに決めていたこと、残代金四〇億円の支払が原告の社内で確認されたのが同年七月七日であったことによるものであり、この原告の帳簿処理は継続性と合理性を備えたものとして最大限に尊重されるべきである。

(五) 前述したとおり、原告は、本件建物を取り壊し、本件土地上に分譲マンションを建築する計画で本件不動産を購入したのであるが、その計画が途中でうまくいかなくなったため、当初の計画を断念し、これを協力関係にあった富士エステートに購入してもらうことになった。本件売買契約においては契約締結時から代金の完済まで最長二年四か月という長期の期間が設定されているが、これは、売買代金額五五億円が大きな金額であり、残代金四〇億円といった金額の借入れは簡単にできることではなく、富士エステートにおいて借入れの見込みも立っていなかったからである。本件売買が、原告と富士エステートの思惑どおりに進めば、原告による本件不動産の仕入価格が三五億円(経費三億円を含む。)、富士エステートへの売却代金が五五億円で、原告の得る粗利が二〇億円となり、富士エステートが三年かかって本件建物の明渡交渉をする費用と金利負担分が合計二〇億円として、富士エステートの仕入価格は七五億円となる。本件不動産の当時の国土法価格は九五億円であったから、富士エステートが右価格で売却するとして、その粗利は二〇億円となり、原告と富士エステートの粗利は同額になるという見込みであった。原告と富士エステートは、このような取引の目的と、目的達成までの期間、その間の経費を含む様々な予測を踏まえて、暫定的な経費の負担の仕方や賃貸料の帰属関係を検討し、これらを織り込んで売買代金の総額を決定したものである。

しかるに、被告は、このような本件取引の実情を無視し、契約書の中から、立退料の負担、金利負担、暫定的な経費負担や賃貸料の収受に関する条項のみを抜き出して、引渡しの時期を昭和六二年九月一一日と主張しているのであるが、被告指摘のこれらの点は、すべて、本件不動産の実情を踏まえて、代金完済、引渡しに至る間の予測される諸事情の処理の仕方として、総体価格に反映されており、また、本件では、本件建物の明渡交渉や明渡訴訟の裁判の推移によっては、富士エステートから本件売買契約の解除を申し入れてくる事態もあり得たし、富士エステートの四〇億円の資金繰りの成否も問題であり、そのことも総体価格や最終取引期限の決め方に反映されていたのである。右の断片的な事項だけから本件不動産の引渡時期を判断し、本件取引が進行し始めてからわずか一〇日後に取引が完了したとする被告の右主張は、取るに足りない主張というほかない。

五  再抗弁(課税権の濫用)

仮に、本件不動産の引渡しの時期を昭和六二年九月一一日と解する余地があり得るとしても、次の点を考慮すれば、被告の本件各処分による課税は課税権の濫用といわざるを得ない。

すなわち、被告は、昭和六三年の東京国税局による査察の当時から異議申立て、審査請求の全過程を通じ七年以上にわたって、本件不動産の引渡日は昭和六三年六月三〇日であると主張し続けてきた。右の昭和六三年六月三〇日というのは、原告がした税務処理での引渡日である同年七月一日とわずか一日違うだけであり、原告のした税務処理にも、前記四の(原告の反論)に記載したところから明らかなようにそれ相当の根拠があったのである。それにもかかわらず、被告が、一日の違いを捉えて本件のような課税を強行したのは、以下に述べる特別の事情があったからである。

1  原告は、昭和五〇年設立された不動産業者を営む会社であり、当時の代表者である園部一豊(以下「園部」という。)のもと急速に規模と業績を拡大した。

しかし、昭和六三年一〇月四日、原告とその関連会社である株式会社伊勢屋が東京国税局の査察を受けた。査察の規模は、原告本社に六〇名、原告の代表者である園部宅に六名のほか、各役員宅、株式会社伊勢屋を初めとする関連会社数社や税理士事務所、取引銀行三行など査察官総勢二五〇名に上る大規模なものであった。右査察では、原告の内部留保金の所得隠しが問題となり、原告関係で約三億五三五〇万円、株式会社伊勢屋関係で一億四五〇〇万円のほ脱を指摘された。原告及び株式会社伊勢屋の代表者である園部は、すべての問題について一人で責任を負うこととし、事実関係を素直に認めて全面的に捜査に協力した。

ただ、その取調べの過程で、東京国税局の担当査察官が代表者園部に対し、国税局のOBを顧問税理士に使ってほしい旨暗に求めたが、代表者園部はこれに応じなかった。

その直後に、本件不動産の売買に係る収益の計上時期が問題にされた。本件借入れの返済が昭和六三年六月三〇日にされているので、右収益は本件事業年度に計上すべきであり、その計上がなければ申告漏れになるというのである。これに対し代表者園部は、本件不動産の売買代金残金の決済を同年七月以降にするよう指示してあり、実際にもその支払は同年七月一日にされているので、いずれにしても本件不動産の引渡日は同日であり、したがって、右収益は本件事業年度でなく、翌期に計上すべきものであると粘り強く主張したが、この件については意見対立のまま物別れの形となった。

右査察の過程で、代表者園部は担当査察官から「査察官を二五〇人も動かしているので二億や三億あげたのでは私の立場がない。」と言われ、また、別の機会には、「マル査を二五〇人も動員するのは最低一〇億円規模の事件なのだ。」とも言われた。

2  その間、平成元年八月に翌期の法人税の確定申告時期が到来したので、原告は、同月二二日に確定申告をしたが、本件不動産の売買に係る収益の計上時期についての税務当局との意見の対立は解消されなかったため、原告は進んで更正決定を受けることとしたところ、担当査察官は、「では更正決定をします。あなたはいずれ起訴になります。長い付き合いになりますね。」と代表者園部に告げた。

3  平成二年二月二七日、本件各処分等が行われ、それに係る納付税額は二五億円を上回り、原告にとっては致命的な打撃であったが、原告は全力を尽くして右税額の納付を済ませるとともに、どうしても納得のできない本件不動産の売買に係る収益の計上時期の問題だけに関して異議申立てをした。原告は、本件各処分に対し異議の申立てをしたが、被告は三か月たっても異議決定をせず、やむなく原告は異議決定のないまま審査請求をしたものの、被告は、意見書の提出を遷延するなど、審査手続の進行を妨害する態度に終始し、その一方で、陰に陽に原告に対し審査請求を取り下げるように圧力をかけるような行為があった。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は争う。

原告が課税権の濫用を基礎づける事情として主張するところは、法律の定めに従った本件各処分を違法ならしめるような事情とは到底いえないから、再抗弁は主張自体失当である。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件不動産の収益等の帰属年度について

(争いがない事実)

抗弁1のうち、所得金額が二四億九五四四万三九〇八円であるとの事実、(二)の(2)のイ、(七)の(1)の本件不動産に係る仕入認容額部分、(八)の(1)の各事実を除くその余の各事実、同1の(七)の事実のうち、本件不動産の仕入金額が被告主張額となること、同1の(八)の事実のうち、本件不動産の販売手数料の額が被告主張額となること、同2の(一)の事実のうち、本件土地を除くその余の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額、本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額の計算方法及び計算結果、同2の(二)の事実、同4のうち、本件不動産の販売による売上げの計上時期が被告主張のとおりであり、右販売が超短期所有の土地の譲渡に該当するとした場合に、所得金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、超短期土地譲渡利益金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、短期土地譲渡利益金額のうち仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額が被告主張のとおりとなることは、当事者間に争いがない。

(本件不動産の収益等の帰属時期について)

抗弁のうち、本件不動産の販売による売上げ等の計上時期に関する部分、すなわち、本件不動産の売上げに係る収益が、本件事業年度に計上すべきものか、それとも翌期に計上すべきものかについて争いがあるので、以下、この点について判断する。なお、右売上げに対応する費用については、費用収益対応の原則により、右売上げを計上すべき事業年度に計上すべきことになるものである。

1  法人税における内国法人の各事業年度の所得の計算上、当該事業年度の益金又は損金の額に算入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとされており(法人税法二二条四項)、右の基準を明文化したといわれる企業会計原則は、その第二の三Bにおいて、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と規定している。そして、法人税基本通達二―一―一は、「たな卸資産の販売による収益の額は、その引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。」と定めているが、これは、右の一般に公正妥当と認められる会計基準に従い、たな卸資産(商品等)の販売による収益の計上時期について実現主義を採用し、その収益をいつ計上すべきかを具体的に示したものであって、法人税法二四条四項の趣旨に適合するものとして是認することができる。

右のとおり、不動産販売による売上げの計上時期については、実現主義によりその販売による収益が実現した時を基準とすべきであり、具体的には、右売上げは、当該不動産の引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入すべきである。

そして、不動産の取引の場合、代金の支払と同時に不動産の引渡し、所有権移転登記が行われ、取引が一時に完了し、したがって、引渡しの時点が客観的に明白な場合がある一方、諸般の事情から各契約当事者の給付が段階的に複数回に分けて行われ、外見上は引渡しがいつ行われ収益がいつ実現したか必ずしも明らかでない場合も生ずるが、後者のような場合には、契約上買主に所有権がいつ移転するものとされているかということだけではなく、代金の支払に関する約定の内容及び実際の支払状況、登記関係書類や建物の鍵の引渡しの状況、危険負担の移転時期、当該不動産から生ずる果実の収受権や当該不動産に係る経費の負担の売主から買主への移転時期、所有権の移転登記の時期等の取引に関する諸事情を考慮し、当該不動産の現実の支配がいつ移転したかを判断し、右現実の支配が移転した時期をもって当該不動産の引渡しがあったものと判断するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、証拠(甲一、二、六、乙一ないし六、七の1ないし18、八の1ないし5、九の1、2、一〇、一一)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件売買契約は、昭和六二年九月一日に成立したものであり、右契約において、次の合意がなされた。右契約において、本件不動産の引渡時期は明示されていない。

(1) 売買代金は五五億円とし、手付金五億円は契約成立時に、中間金一〇億円は昭和六二年九月一一日までに支払う。

(2) 売主は、中間金受領日以降、買主が本件売買契約の残代金四〇億円を支払ったときは、いつでも本件不動産の引渡し及び所有権移転登記に応ずる。ただし、昭和六四年(平成元年)一二月三一日までの時期については買主の任意に任せるものとする。この場合、買主は、次の条項を承認するものとする。

ア 後記(4)にかかわらず、昭和六二年九月一一日以降の本件不動産に係る租税、公課を買主が負担する。

イ 本件借入れに係る支払利息のうち昭和六三年一月二三日以降の分を買主が負担する。

ウ 本件建物の賃貸中賃借入に対する立退費用等の支払義務が発生した場合は、買主においてこれを負担する。

エ その他本来所有権者に対して発生する一切の費用を買主が負担する。

オ 後記(5)の危険負担に関しては、引渡しの日を昭和六二年九月一一日に設定する。

(3) 買主は、本件建物が現在売主から第三者へ賃貸中であることを了承の上、現況有姿のまま引渡しを受けるものであり、したがって、売主の貸主としての地位をそのまま買主は承継するものとする。また、賃借人の立退きに要する費用等は買主においてこれを負担するものとする。

(4) 本件不動産に関する租税、公課その他の賦課金、負担金及び電気、ガス、水道その他付帯設備の使用料等については、宛名名義のいかんにかかわらず、本件不動産の引渡し前日までの分は売主の負担とし、それ以後の分は買主の負担とする。ただし、昭和六二年度の固定資産税、都市計画税の負担割合算定の起算日は、同年一月一日とする。ただし、前記(2)による場合は昭和六二年九月一一日の中間金受領の日を基準として計算する。

(5) 本件不動産がその引渡し完了前に天災その他売主及び買主の責めによらない事由によって滅失又は毀損したときは、その損失は売主の負担とし、買主はこの契約を解除することができる。買主がこの契約を解除したときは、売主は、すでに受領した手付金を買主に返還する。

(6) 売主又は買主のいずれか一方がこの契約に違反したときは、相手方は催告の上この契約を解除することができる。買主の違約によって契約が解除されたときは、手付金は、売主がこれを取得し、買主に返還する義務を負わない。

(二) 手付金五億円は右契約成立時に、中間金一〇億円は昭和六二年九月一一日にそれぞれ富士エステートから原告に支払われた。

(三) 原告は、本件不動産を取得した当時である昭和六二年一月二三日、第一住宅金融から四〇億円の本件借入れをし、右借入金債務を担保するため、第一住宅金融のため本件不動産に被担保債権額を四〇億円とする抵当権を設定した。本件借入れに係る金銭消費貸借契約においては、原告は年七パーセントの利率による利息を毎年一月、四月、七月、一〇月の各二二日に三か月分を前払いし、元金は、本件不動産の売却時又は平成二年一月二二日に一括して弁済するものとされ、本件不動産を売却する場合、売買代金の受領権限は第一住宅金融に委任され、第一住宅金融は代金を受領した場合、これを右貸付金の返済に充当することができるとの約定がなされていた。

本件売買契約の残代金四〇億円については、買主である富士エステートが原告の右借入金四〇億円を第一住宅金融に対し代位弁済することによって支払われた。具体的には、富士エステートが、昭和六三年六月三〇日、富士銀行兜町支店発行の額面四〇億円の本件預手を第一住宅金融に交付し、右預手が同年七月一日に東京手形交換所に呈示され、同日決済されることにより、右借入金の代位弁済がされたものである。

右代位弁済を受けて、第一住宅金融は、昭和六三年六月三〇日付けで原告に対し右金額の領収証を発行するとともに、右借入金が同日に完済された旨を付記して本件借入れに係る金銭消費貸借契約書を原告に返却している。

(四) 本件借入れに係る支払利息のうち、昭和六三年一月二二日及び同年四月二二日に支払うべき各三か月分の前払利息については、本件売買契約に基づき、富士エステートが支払っている。

(五) 本件建物に関しては、原告と本件建物の賃借人の一部との間で建物明渡訴訟が東京地方裁判所八王子支部に係属していたなどの事情から、右賃借人に対し、貸主変更の通知は一切行われなかった。

そのため、本件建物の賃貸料は、本件売買契約成立後においても、従来どおり第一勧業銀行新宿西口支店の原告名義の普通預金口座に入金されていた。原告は、従前は、賃貸料収入は雑収入として収益に計上していたが、昭和六二年九月二一日までの入金に係る賃貸料を雑収入に計上し、同月二八日以降の入金に係る賃貸料を仮受金として計上した。

同年一〇月二七日、右雑収入から、本件不動産の同年九月一一日から同月三〇日までの賃貸料相当額一七九万一六五〇円が差し引かれ、右金額と同年一〇月分の賃貸料相当額二六八万七四八〇円との合計四四七万九一三〇円が富士エステートに支払われた(なお、実際の支払額は、右の賃貸料相当額合計四四七万九一三〇円から、本件建物に係る電気料五八六四円、電気保安料一万九〇〇〇円、エレベーター保守料四万九七五〇円及び送金料六〇〇円の合計七万五二一四円を控除した四四〇万三九一六円である。

以後、原告から富士エステートに対し、毎月本件建物の賃貸料相当額(ただし、水道光熱費、電気料などの経費を控除したもの)が入金され、富士エステートは、これを受取家賃勘定として収益に計上してきた。

(六) 本件建物の維持管理費である電気、水道の利用料金、電気保安料、エレベーター保守料については、別表16記載のとおり、昭和六二年九月分以降(ただし、電気料金については同月一一日分以降、電気保安料については同年一〇月分以降)を富士エステートが負担している。

(七) 本件不動産に関し、権利証などの関係重要書類の交付や所有権移転登記、本件建物の鍵の引渡し又は賃借人に対する貸主の変更通知などは、一切行われていない。

3(一)  右2の認定事実を基に考えるに、前記2(五)のとおり、昭和六二年九月一一日以降の本件建物の賃貸料は富士エステートに帰属するものとして、原告から同会社に支払われており、一方、前記2(六)のとおり、本件建物の電気、水道の利用料金、電気保安料、エレベーターの保守料については、別表16記載のとおり、昭和六二年九月分以降(ただし、電気料については、同年一一月分以降、電気保安料については同年一〇月分以降)は富士エステートが負担しており、これらのことからすると、富士エステートと原告の間では昭和六二年九月一一日以降本件建物の賃貸人の地位を富士エステートが承継し、本件建物の使用収益権能は富士エステートに移転するものとの合意があったものと推認することができる。

原告は、昭和六二年九月一一日以降の賃貸料(維持費を控除した残り)が原告から富士エステートに支払われた旨の帳簿処理がされているが、これは、原告が一五億円の内金の支払を受けていることの見返りとして、実質的に利息の一部を補填していたものにすぎないなどとし、このことから、同日の時点で本件建物の賃貸人の地位が富士エステートに移ったものと評価することはできない旨主張する。しかしながら、売買契約において買主が中間金を支払ったとしても、特段の約定がない限り、売主がその金利分を補填することは通常考えられず、乙一によれば、本件売買契約において、手付金五億円には利息を付さない旨が明文で約定されているのであって、原告の右主張は失当である。

また、原告は、昭和六三年度及び平成元年度の固定資産税は原告が武蔵野市に支払っている旨主張するが、昭和六三年一月一日及び昭和六四年一月一日の各時点において本件不動産の所有権者は登記簿上原告と表示されていたものと認められるから、本件不動産の固定資産税が原告に賦課されるのはむしろ当然のことであり、本件売買契約の約定によれば、昭和六二年九月一一日以降の本件不動産の公租公課は富士エステートが負担するものとされているのであるから、原告が支払った固定資産税の額は富士エステートとの間で右約定に従い清算されるべきものである。原告の右主張事実は、右認定を妨げるものではない。

(二)  また、本件不動産は、本件建物の賃借権を除く抵当権等の負担のない場合の価額を五五億円と定めて売買が行われているが、本件不動産には被担保債権額を四〇億円とする抵当権が設定されており、その元本が未返済であったから、抵当権の負担がある場合の本件不動産の価格は一五億円であり、代金額のうち一五億円だけが原告の手取りの収入になるものというべきである。

しかして、原告は昭和六二年九月一一日までに富士エステートから一五億円の支払を受けたものであり、さらに、本件借入れに係る年七パーセントの利率による利息については、昭和六三年一月二二日までは原告の負担となるが、同月二三日以降の分は富士エステートが負担するものと約定され、そのとおり履行がなされているものであり、右売買の履行としては、富士エステートが四〇億円の資金繰りをして第一住宅金融に代位弁済して抵当権を抹消した上、所有権移転登記を経由することだけが残されていたものである。

さらに、本件売買契約によれば、買主である富士エステートは、本件不動産に係る昭和六二年九月一一日以降の分の公租公課を負担し、本件建物の賃借人に対する立退費用等が発生した場合にはこれを負担するのみならず、本来所有権者に対して発生する一切の費用を負担するものとされ、さらに、同日以降本件不動産が引渡し完了前に天災その他売主及び買主の責めによらない事由によって滅失又は毀損した場合の危険を負担するものとされており、右各事実によれば、本件不動産の売買は、抵当権付きの不動産の売買と同視することができるものであり、原告と富士エステートの間では、本件不動産の代金額から被担保債権額を控除した残額一五億円が支払われることにより、それ以降は、富士エステートが本件不動産の実質的な所有権者として本件不動産に係る公租公課等の費用を負担し、危険負担を負うものとする合意がなされたものと認めるのが相当である。

原告は、残代金四〇億円が支払われていない点、本件建物の賃借人の明渡交渉や明渡訴訟が継続中であり、それが進捗しない場合には解除されるおそれがある点を挙げ、本件不動産の引渡時期を昭和六二年九月一一日とするのは誤りである旨主張するが、仮に富士エステートが残代金四〇億円の支払ができない場合、抵当権設定登記の抹消登記手続はできなくなるが、本件売買契約の約定からすれば、その場合原告が債務不履行責任を負うことはないと解されるし、当時本件不動産の時価が五五億円を遥かに上回っていたことは原告の自認するところであるから、四〇億円の債務の弁済に支障が生ずるおそれはほとんどなかったものと推認される。また、本件不動産は現況有姿のままで原告から富士エステートに引渡されることになっているから、本件建物の賃借人との明渡交渉や本件建物の明渡訴訟の推移いかんによって、富士エステートがその一方的な意思表示により本件売買契約を解除することができないことも明らかである。したがって、原告の右主張はいずれも理由がない。

また、原告は、富士エステートは、本件借入れに係る利息につき昭和六三年一月二三日以降の分から負担すればよいとされていることから、富士エステートと原告が、昭和六二年九月一一日を引渡日とするものと考えていたとはいえない旨主張するが、右利息負担の合意は、残代金の支払を受けなくても原告は本件不動産の売買により得られる手取金額を既に取得していることを前提に、それ以後の利息のうち昭和六三年一月二三日以降の分について買主の負担とすることを定めたものにすぎず、右合意が本件売買契約において残代金の支払時期を昭和六四年(平成元年)一二月三一日まで買主の任意に任せることの代償としてなされていることを考慮すれば、右事実は、むしろ、本件不動産の現実の支配がそれより前に行われたことを裏付ける一つの徴憑となるものであり、前記認定を妨げるものということはできない。

(三)  昭和六二年九月一一日の時点では、本件建物の賃借人に対する貸主変更の通知、権利証などの関係重要書類の交付、本件建物の鍵の引渡し、所有権移転登記などが行われていなかったことは、前記2に認定したとおりである。

しかしながら、前記2(五)の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告と本件建物の賃借人の一部との間で建物明渡訴訟が東京地方裁判所八王子支部に係属しており、右訴訟係属等の事情があったことから、本件では、本件建物の賃借人に対し貸主変更の通知が一切行われず、買主である富士エステートに対し権利証などの関係重要書類の交付や所有権移転登記、本件建物の鍵の引渡しなどが行われなかったものと認められ、現在に至るも所有権移転登記は行われていないことが明らかであるから、本件不動産の引渡しの時期の判断に当たって、この点を重視することは妥当でないというべきである。

(四)  本件不動産の売買においては、本件不動産が抵当権付きのものであり、富士エステートと原告の間に存する諸事情から売買契約において本件不動産の引渡しの時期は明示されず、売買に関する給付が段階的に複数回に分けて行われ、本件建物の賃貸借契約における賃貸人の地位の承継、公租公課の負担、危険負担の移転の時期等に関して通常と異なる約定がなされており、外見的にみると引渡しがいつ行われ右売買による収益がいつ実現したか必ずしも明らかではないから、代金の支払に関する約定の内容及び実際の支払状況、登記関係書類や建物の鍵の引渡しの状況、危険負担の移転時期、当該不動産から生ずる果実の収受権や当該不動産に係る経費の負担の売主から買主への移転時期、所有権の移転登記の時期等の取引に関する諸事情を考慮し、当該不動産の現実の支配がいつ移転したかを判断し、右現実の支配が移転した時期をもって当該不動産の引渡しがあったものと判断するのが相当であるところ、右(一)、(二)の諸点を併せ考えると、昭和六二年九月一一日の時点では本件売買代金のうち約二七パーセントに相当する一五億円しか支払われていないものの、富士エステートと原告の間では、富士エステートが本件不動産の代金額から抵当権の被担保債権額を差し引いた金額を支払ったことにより、本件不動産の現実の支配権を富士エステートに移転する合意があったものと認めるのが相当である。

法人税基本通達二―一―二後段は、当該たな卸資産が土地又は土地上の権利であり、その引渡しの日がいつであるか明らかでない場合は、代金の相当部分(おおむね五〇パーセント以上)を収受するに至った日又は所有権移転登記申請をした日のいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる旨を定めているが、本件不動産の売買が抵当権付きの売買と同視し得ること、本件不動産の所有権移転登記は現在に至るも行われていないことからすれば、本件売買代金額から抵当権の被担保債権額を控除した残額一五億円が支払われた昭和六二年九月一一日をもって引渡日と認定することは、右通達の趣旨にも沿うものというべきである。

右のとおり、昭和六二年九月一一日に買主である富士エステートに対し本件不動産の現実の支配権の移転が行われたものというべきであるから、本件不動産の販売による売上げ等は、同日を含む事業年度である本件事業年度において計上すべきである。

(五)  原告は、本件不動産の引渡時期を昭和六三年六月三〇日や昭和六二年九月一一日と捉える余地があるとしても、少なくとも同等以上の合理性と根拠とをもって昭和六三年七月一日を引渡日と捉えることができるというべきであり、したがって、原告がそのうちの一つである同年七月一日を引渡時期として税務申告をしても、それを誤りとすることはできない旨主張する。

しかしながら、不動産の販売による売上げの計上時期は、当該不動産の引渡しがあり右販売による収益が実現した時とすべきであり、本件では、本件不動産の現実の支配が移転した昭和六二年九月一一日に引渡しがあり、収益が実現したものと認めるのが相当であることは、前示のとおりであるから、原告の主張は採用できない。

三  再抗弁―課税権の濫用の主張について

1  原告は、被告は、昭和六三年の東京国税局による査察の当時から異議申立て、審査請求の全過程を通じ七年以上にわたって、本件不動産の引渡日は昭和六三年六月三〇日であると主張し続けてきたが、右の昭和六三年六月三〇日というのは、原告がした税務処理での引渡日である同年七月一日とわずか一日違うだけであり、原告のした税務処理にもそれ相当の根拠があったのである、それにもかかわらず、被告が、一日の違いを捉えて本件のような課税を強行した背景には、前記事実欄の第二の五記載の特別の事情があったからであり、本件各処分による課税は課税権の濫用に当たる旨主張し、甲二四(園部の陳述書)には、これに沿う部分がある。

2(一)  しかしながら、原告主張のように本件不動産の引渡時期を昭和六三年七月一日ないし同月七日と捉える余地があり、その点が納税者の選択に任されているとするならば、課税権の濫用を論ずるまでもなく、本件課税処分自体が違法となるものである(なお、原告の右主張が理由のないことは、既に説示したとおりである。)。

そもそも、法律に根拠を有する課税権の行使が檻用として違法の評価を受ける場合があるかどうかは問題のあるところであるが、仮にそのような場合があるとしても、それは、税務職員が、自己の不当な要求を拒絶されたため、専ら納税者に対し報復をするためなど不当な目的をもって、ことさらに当該納税者をねらい打ちして調査を実施し、些細な課税理由をもって、税務署長をして課税処分を行わせたというような極めて特殊な場面に限定されるものと解される。

(二)  本件についてこれをみるに、右甲二四の記載のうち、原告の代表者園部が担当査察官から国税局のOBを顧問税理士に使用してほしいなどの要求を受けたかのようにいう部分は、一方当事者の陳述にすぎずこれを裏付ける客観的な証拠がなく、たやすく信用することができない。また、仮に右陳述書に記載されたような事実が一部あったとしても、本件不動産の販売による売上げの計上時期については、本件預手が第一住宅金融に交付されたのが昭和六三年六月三〇日であり、前記認定のとおりそれ以前に本件不動産の現実の支配権が富士エステートに移転したと認めるべき諸事実があったのであるから、右売上げを本件事業年度に計上すべきものとした担当の税務職員の判断は合理性を有しており、しかも、本件不動産の売上げの計上時期の問題は、本件更正処分の理由の一つにすぎないことから考えて、右税務職員が専ら納税者に報復をする意思をもって、本件各処分を行わせたとは到底認められず、他に、本件各処分が課税権の濫用によるものと評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

四  本件各処分の適法性について

1  所得金額

(一)  所得金額については、抗弁1の争いのない項目について加算、減算を行い(ただし、事業税認定損の金額については後記のとおり被告の計算に誤りがあるので、計算し直した別表17の金額による。)、また、前示のとおり、本件不動産の販売による売上げは本件事業年度の収益として計上し、右売上げに対応する費用は右事業年度の損金に算入すべきであるから、抗弁1の(二)の(2)イの金額を加算し、金額自体に争いがない同(七)の(1)のうち本件不動産に係る仕入金額三三億〇九七八万六三〇〇円及び同(八)の(1)の各金額を減算すると、別表18記載のとおり二四億九五四四万三七五八円となり、これに対する税額は一〇億四八〇八万六〇六〇円と算出される。

これに対し、被告は、所得金額は二四億九五四四万三九〇八円である旨主張するが、事業税認定損の計算(別表11)において端数処理を誤っており(正しい金額は別表17記載のとおり)、被告主張の右金額は採用できない。

(二)  本件不動産の販売による売上げの計上時期が被告主張のとおりであるとした場合に、所得金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額が被告主張のとおりとなることは当事者間に争いがなく、これと右(一)で述べた被告主張金額の端数処理の誤りとを併せて考慮し、右被告主張の仮装隠ぺい部分以外の金額を一部修正して計算すると、右所得金額のうち、仮装隠ぺい部分以外に係るものは二一億四七五八万二七六一円であり、これに対する税額は九億〇一九八万四八六〇円と算出される。

2  土地譲渡利益金額

(一)  法人が土地又は土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)を譲渡した場合、所有期間(譲渡した土地等の取得をした日の翌日から譲渡をした日の属する年の一月一日までの期間)に応じて、法人税法六六条による法人税とは別に、次に述べる措置法による法人税が課される。

すなわち、超短期所有の土地の譲渡(昭和六二年一〇月一日以後に譲渡した所有期間が二年以下の土地等の譲渡)をした場合は、その譲渡利益金額の合計額に一〇〇分の三〇を乗じた金額が法人税として課税され(措置法六三条の二)、短期所有の土地の譲渡(昭和六二年九月三〇日以前に所有期間が一〇年以下の土地等を譲渡及び同年一〇月一日以後に所有期間が二年を超え五年以下の土地等の譲渡)をした場合は、その譲渡利益金額の合計額に一〇〇分の二〇を乗じた金額が法人税として課税される(措置法六三条、措置法六三条の二)。

また、措置法六三条一項及び措置法六三条の二第一項に規定する土地譲渡利益金額とは、土地の譲渡等による「収益の額」から、その収益に係る「原価の額」及び土地の譲渡等のため「直接又は間接に要した経費の額」として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をいい(措置法六三条二項、措置法六三条の二第二項)、右の「直接又は間接に要した経費の額」とは、「負債の利子の額」と「販売費及び一般管理費の額」の合計額とされている(措置法施行令三八条の四第六項、同施行令三八条の五第四項)。

(二)  右「取得」及び「譲渡」の時期については、法人税における収益の計上時期と同様と解するのが相当であるところ、前示二3のとおり本件土地は昭和六二年九月一一日に原告から富士エステートに対し引き渡されたことが認められるから、本件土地の譲渡の日は同日であるというべきであり、かつ、弁論の全趣旨によれば、原告が本件土地を引続き所有していた期間は一〇年以下であることが認められるから、本件土地の譲渡は短期所有の土地の譲渡(措置法六三条二項)に当たるものである。

本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額の計算に当たり、「負債の利子の額」については概算法(措置法施行令三八条の四第六項一号)によること、「販売費及び一般管理費の額」については実額法(同施行令三八条の四第八項)によること、その具体的金額が別表12記載の被告主張に係る金額と同一であることは、当事者間に争いがなく、そうすると、本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額(措置法六三条二項)は、一四億三〇七〇万七〇一六円となる。

原告は、本件土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額は翌期に計上すべきである旨主張するが、前示のとおり、本件土地の譲渡は昭和六二年九月一一日にされたものとみるべきであるから、原告の右主張は理由がない。

一方、被告は、本件土地の譲渡を超短期所有の土地の譲渡に当たる旨主張しているが、措置法六三条の二によれば、超短期所有の土地の譲渡とは、昭和六二年一〇月一日以後に譲渡した所有期間が二年以下のものをいうのであり、本件土地の譲渡が超短期所有の土地の譲渡に当たらないことは明らかであるから、被告の右主張は理由がない。

(三)  抗弁2の(一)のうち本件土地を除くその余の土地の譲渡に係る土地譲渡利益金額、同2の(二)の金額、及び本件土地の販売による売上げの計上時期が被告主張のとおりであり、右販売が超短期所有の土地の譲渡に該当するとした場合に、所得金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、超短期土地譲渡利益金額のうちの仮装隠ぺい部分以外の金額及びこれに対する税額、短期土地譲渡利益金額のうち仮装隠ペい部分以外の金額及びこれに対する税額が被告主張のとおりとなることは当事者間に争いがなく、このことと右(二)に認定した事実を併せ、右被告主張金額を一部修正して計算すると、別表19ないし22記載のとおり、

(1) 短期土地譲渡利益金額      二〇億七九〇四万八四七七円

(うち仮装隠ぺい部分以外に係るもの 一八億四四六九万二九九三円)

これに対する税額           四億一五八〇万九六〇〇円

(うち仮装隠ぺい部分以外に係るもの  三億六八九三万八四〇〇円)

(2) 超短期土地譲渡利益金額      一億二九七七万〇一四三円

(うち仮装隠ぺい部分以外に係るもの  一億一三六九万六六一三円)

これに対する税額             三八九三万一〇〇〇円

(うち仮装隠ぺい部分以外に係るもの    三四一〇万八八〇〇円)

と算出される。

3  まとめ

以上をまとめると、本件事業年度における納付すべき税額及び過少申告加算税額は、次のようになる(別表22参照)。

(一)  納付すべき税額

前示1、2のとおり、所得金額二四億九五四四万三七五八円に対する税額は一〇億四八〇八万六〇六〇円、短期土地譲渡利益金額二〇億七九〇四万八四七七円に対する税額は四億一五八〇万九六〇〇円、超短期土地譲渡利益金額一億二九七七万〇一四三円に対する税額は三八九三万一〇〇〇円であり、これらを合計した一五億〇二八二万六六六〇円から控除所得税額五〇一万〇四九五円を差し引いた一四億九七八一万六一〇〇円(ただし、通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)が、本件事業年度における納付すべき税額である。

(二)  過少申告加算税額

前示1、2のとおり、所得金額に対する税額のうち仮装隠ぺい部分以外に係るものは九億〇一九八万四八六〇円、短期土地譲渡利益金額に対する税額のうち仮装隠ぺい部分以外に係るものは三億六八九三万八四〇〇円、超短期土地譲渡利益金額に対する税額のうち仮装隠ぺい部分以外に係るものは三四一〇万八八〇〇円となり、これらを合算した一三億〇五〇三万〇〇〇〇円(ただし、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)が、過少申告加算税の基礎となる金額であり(別表22の(2)〈22〉記載のとおり)、これに通則法六五条一項、二項、三項二号を適用すると、過少申告加算税額は一億九四五五万七五〇〇円(別表22の(2)〈23〉ないし〈25〉及び注参照。)と算出される。

4  したがって、本件更正処分のうち、納付すべき税額一四億九七八一万六一〇〇円(所得金額二四億九五四四万三七五八円、超短期土地譲渡利益金額一億二九七七万〇一四三円、短期土地譲渡利益金額二〇億七九〇四万八四七七円として計算した税額から控除所得税額五〇一万〇四九五円を差し引いた金額)を超える部分及び本件賦課決定処分のうち一億九四五五万七五〇〇円を超える部分は過大であって違法であり、その余の部分は適法というべきである。

五  結語

よって、原告の本件請求は、本件更正処分のうち、納付すべき税額一四億九七八一万六一〇〇円(所得金額二四億九五四四万三七五八円、超短期土地譲渡利益金額一億二九七七万〇一四三円、短期土地譲渡利益金額二〇億七九〇四万八四七七円として計算した税額から控除所得税額五〇一万〇四九五円を差し引いた金額)を超える部分及び本件賦課決定処分のうち一億九四五五万七五〇〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青柳馨 増田稔 篠田賢治)

別紙物件目録、別表1ないし22〈省略〉

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